栗駒山は「花の百名山」として知られ、東北地方では早池峰や秋田駒ケ岳と並ぶ高山植物の宝庫です。
登山道や高層湿原では、色とりどりの花を咲かせる多様な高山植物が、登山者を出迎えてくれます。
萱草(禅庭花、日光黄菅)などが咲き誇り小さな尾瀬ケ原とも呼ばれる「世界谷地」をはじめ、「イワカガミ湿原」や「名残ヶ原」、「龍泉ヶ原」、「しろがね草原」、「御室」などの高層湿原は、多様な高山植物が咲き誇る雲上の楽園。
数ある花の中でも「花の百名山」で紹介された雛桜(ヒナザクラ)の群生が見事です。6月上旬から山頂や秣岳の東南斜面でよく目につきます。また、雪渓が消えた直後に咲き誇り、9月上旬頃まで見ることが出来ます。

花の百名山「栗駒山」雛桜(ひなざくら)

花の百名山「栗駒山」と「雛桜」

劇作家の田中澄江さんは、女性の登山が一般的でなかった昭和初期から山に親しみ、山を愛し、女性の登山会「高水会」を主宰されました。
「花の百名山」は、田中さんが、昭和55年(1980年)に発表した随筆集で、翌年に第32回読売文学賞(随筆・紀行賞)を受賞。この随筆集は、「日本百名山」の深田久弥さんのように山の大きさや品格にはこだわらず、著者が辿った山の花をまとめた随筆集で、昭和53年から3年間にわたり「山と渓谷」に連載された記事です。

田中さんは、北海道から青函連絡船で青森へ渡り、一関を経由して須川高原温泉から栗駒山に登られました。
青函連絡船内でのある出来事で精神的にとても疲れていた田中さんは、栗駒山で出会った白く可憐な雛桜に心打たれたことを印象的に記しています。6月中旬から下旬頃の来訪だったのでしょうか。

雛桜のほかに、以下の花たちにも触れられています。
虫取菫(ムシトリスミレ)、峰蘇芳(ミネズオウ)、岩高蘭(ガンコウラン)、栂桜(ツガザクラ)、金光花(キンコウカ)、毛氈苔(モウセンゴケ)、立山竜胆(タテヤマリンドウ)、水芭蕉(ミズバショウ)、猩々袴(ショウジョウバカマ)

高山植物が群落する代表的なお花畑

東栗駒山  東栗駒登山道

深山金梅(ミヤマキンバイ)は、栗駒山では東栗駒山の稜線だけに見られる花です。
東栗駒山の稜線は典型的な高山風衝地で、強い風が常に吹きつける場所を風衝地と言います。
この稜線上は、呼吸が苦しくなったり、時には体が浮き上がりそうになるほどの強風が吹き荒れる場所です。強風に常にさらされるため、厳冬期でも雪がほとんど積もることなく、表土が吹き飛ばされ岩盤が露出し、植物が生育しにくい場所ですが、この可憐な黄色い花は強風に耐え、5月下旬から6月中旬頃にかけて元気に咲き誇ります。

展望岩頭  天馬尾根(秣岳)登山道

天馬尾根(秣岳)登山道の山頂近く、須川分岐から約400m手前の標高約1,500m付近にある北斜面の断崖は、展望岩頭と呼ばれ、その名の通り展望が良く、栗駒山でも指折りの山岳風景を楽しめる場所です。
眼下には、龍泉ヶ原等の高層湿原、剣岳と昭和湖、須川湖等の火山が形成した特徴的な地形を眺め、遠くには、天馬尾根と神室連峰、遥か先には鳥海山、月山、焼石連峰等々の奥羽山脈の名峰が望むことが出来ます。
足元に目をやると、ここもまた高山植物の宝庫で、6月上旬頃から登山道の両脇には小さな高山植物が咲き誇り、断崖に張り付くように高山植物がひしめき合います。
また、天馬尾根(秣岳)の鞍部から展望岩頭までの斜面には、6月頃に更紗満天星(サラサドウダン)が咲き誇り、更紗満天星街道と名付けられています。

御室  表掛(御沢)登山道

表掛(御沢)・大地森分岐と虚空蔵十字路の間にある御室(おむろ)は、高山植物の宝庫です。積雪の多い年は9月まで雪渓が残り、雪渓が溶けた場所から、花が次々と咲いていきます。8月に水芭蕉が咲くなど、春の花が夏や秋に咲いたり、春夏秋の花を同時に見ることができ、秣岳(天馬尾根)登山道と並ぶお花畑です。雛桜と金光花等の群落が見られます。
ここは栗駒山の最奥部で、どの登山道を利用しても3時間以上を要します。特に表掛(御沢)登山道は、御沢から御室まで危険な箇所が多く、他の登山道よりも技術と体力が要る、中級者以上向けの本格的な登山道です。初心者には決してお勧めしません。

しろがね草原  天馬尾根(秣岳)登山道

秣岳から秣岳鞍部まで標高約1,400m付近に広がる高層湿原で、草原に覆われています。春から夏にかけて、雛桜、立山竜胆、岩鏡などが次々と咲き誇る高山植物の宝庫です。秋には「白金」の名の通り、草原が一面草黄葉となり、9月下旬から10月下旬まで楽しめます。

名残ヶ原 須川登山道

須川登山道の途中、標高約1,160m~1,170m付近に広がる高層湿原で、岩鏡や金黄花などの群落が見られるお花畑です。遊歩道が整備され、須川高原温泉から約500mと近いため、登山者以外の観光客も気軽に訪れることが出来る場所です。

賽の河原  須川登山道

苔花台(自然観察路分岐)  自然観察路(須川登山道)

イワカガミ湿原  須川高原

世界谷地原生花園  大地森(世界谷地)登山道

世界谷地は、大地森(標高1,154.9m)と揚石山(標高869.4m)の間に位置し、栗駒山南斜面の山麓(標高669mから707m地帯)に広がる細長い湿原(面積14.34ha)です。世界谷地とは広い湿原という意味です。毎年6月頃に咲く萱草(禅庭花、日光黄菅)の大群生は全国的に有名で、湿原一面が山吹色でおおわれる美しい風景が見られ、小さな尾瀬ケ原とも呼ばれます。登山道の基点である世界谷地駐車場から近く、遊歩道が整備されており、観光客も気軽に訪れることが出来ます。

栗駒山で見られる代表的な花