栗駒山の紅葉を見ずして山岳紅葉を語ることなかれ

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日ごと寒さが増し、山里の紅葉も終わり、高い山はすでに冬の装いで、栗駒山は厳しい風雪が一般登山者の入山を拒む厳冬期を迎えています。

栗駒山の紅葉について、ふと思い出したことを書き留めておきます。

さて、栗駒山の南山麓にある栗原市栗駒地区(旧栗駒町)には、栗駒山を讃える「栗駒山唄」という民謡があります。
この唄は、「いちど登れば虜になると聞いた言葉に嘘はない」という歌詞で始まり、秋の紅葉を含め「栗駒山は日本一」と言う謳い文句が軽快な曲に乗せられ、地元では夏祭りなどで歌われ親しまれています。

花の百名山の栗駒山は、山岳紅葉の名所として知られ、最近は全国的に知名度が上がって来ました。
地元では日本一と言われる栗駒山の紅葉、最近は涸沢よりも栗駒山の方が美しいという声もよく聞かれます。
紅葉が美しい山はたくさんあるけど、どこが日本一なのか気になり、日本一の山岳紅葉を訪ねてみたいと思っていました。

「日本で最も紅葉が綺麗な山は?」と岳人に尋ねたら、おそらく真っ先に名前が挙がるのは穂高連峰の涸沢で、多少山に詳しい方なら知らない人はいないほど有名な場所です。
岳人から絶大な人気を誇る穂高連峰、私もその厳しくも美しい山容に魅了され何度か訪れています。
数年前の秋、若い頃に中途半端でやめてしまった登山を本格的に再開した僕は、槍・穂高連峰を縦走しました。
上高地から槍沢を登り、槍ヶ岳から大喰岳、南岳と南下し、大切戸を越え、北穂高岳、涸沢岳、そして憧れの奥穂高岳へ。
最高の天気に恵まれ、高山ならではの美しい景色に出会い大満足していた時、涸沢の紅葉がちょうど最盛期を迎えていました。

四季折々に美しい表情を見せてくれる穂高ですが、秋は特別な季節。
涸沢の紅葉は日本一の山岳紅葉と称され、「涸沢の紅葉を見ずして穂高を語ることなかれ」という名言も生まれ、穂高を愛する岳人たちは日本一の紅葉だと自慢して憚りません。

その紅葉たるや、僕の下手な写真の腕では伝えきれませんが、写真のような絶景です。

穂高連峰に囲まれる氷河地形の圏谷に朝日が射し込み、岩稜帯の山肌と鮮やかな赤や黄に色づいた紅葉が、朝日に照らされ赤く染まる朝焼けのMorgenrote(独逸語)と呼ぶ瞬間は、まさに息を飲むほどの絶景。

紅葉最盛期の涸沢は、この絶景を期待する岳人で大混雑し、山小屋では一畳の空間に3~5人もの人が押し込まれ、屋外は最大1,500張もの色とりどりの幕営で埋め尽くされます。
一年のうち秋のわずか数日間、涸沢に集った数千人もの岳人たちが、この驚くほど美しい紅葉を見て歓喜します。

涙を流して感激している方々の隣で、僕も撮影に夢中になっていましたが、僕には涙を流すほどの感動はありませんでした。
こんな絶景を前にして、深く感動しないのは何故だろう。加齢と共に感性が衰えてしまったのか等と心の中で自問している時、少し離れた場所で観賞していた、仙台からいらした50年前には超絶美人な山女子だったと思われるご婦人方が、口を揃えて言いました。
仙台弁「とってもうづぐしいげど、栗駒に比べだら大したごどないっちゃね。んだんだ!」
標準語訳「とても美しいけど、栗駒山の紅葉と比較したら、それほどのものではないですよね。そうそう!」
ご婦人たちの言葉に、自分の中でもやもやしていた疑問が氷解し、なるほどと納得しました。

山に優劣はないし、特定の山や風景等が日本一かどうかなんていうことは、標高など誰にも納得できる物差しがあるならともかく、あくまで見る人の受け止め方や主観に関わること。
見る方それぞれが感じるままに、心の中で一番と位置づければ良いだけです。
私は栗駒山の紅葉が日本一だなどと言うつもりは全くないけど、栗駒山の紅葉を見た後に、涸沢の紅葉を見てしまうと、私や仙台のご婦人のように感動が薄れるかもしれません。

これまで、たくさんの山に登り、紅葉が美しいと言われる八甲田や八幡平、世界で最も美しい紅葉というCanadaのLaurentian高原も見ましたが、栗駒山を超える感動は未だありません。

今季の紅葉は、梅雨の長雨と温暖化による猛暑による影響なのか、全体的に色褪せたようなとても残念な感じだったので、来年こそは最高の色づきを期待しています。

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